vol.6 大好き。だから余すところなく住み尽くしたい。 new!!
(代替わり既存住宅/長野市リノベーション事例)
築50年を超えるこの家は、もともと奥さまのおじいちゃんとおばあちゃんの家。子どもの頃から何度も遊びに来た家で、大人になってから、おばあちゃんとおばあちゃんの愛猫、“ふたりと1匹”で暮らした時期もあるのだとか。数年後、住むひとのいなくなったこの家に、おばあちゃんから預かった愛猫と自分の家族を連れて戻ってた奥さま。「大好きな家にずっと住みたい」とリノベーションを決めたそう。
古いもの・手の込んだものに愛情を注ぎ、広い家でのびのび暮らすAさん家族の暮らしを訪ねました。
ぜんぶ、好き。だから、ずっと住みたい。
「この柱も、あの障子も、全部ぜんぶ好きなんです」と奥さま。
おばあちゃんと暮らした時期もある奥さまには、この家は本当に「特別」だ。雪見障子から見る庭の景色にジーンとくるし、柱のキズを見れば「あの時のアレ」と思い出すという。子どもの頃に過ごした時間、大人になって暮らした時間、おじいちゃんおばあちゃんの面影。そういうものが、丸ごと全部詰まっている。
結婚し、子どもが産まれ、家族とこの家に住むようになったのは数年前。おばあちゃんの他界後に引き取った愛猫と一緒にこの家に戻り、以来、家族と共に愛着を深めてきた。
「やっぱり住みたかったんですよね、この家に」。
それでも長く住む人がいなかった家には問題が山積。あちこちに傷みがあり、ずっとこのままというわけにはいかなかったという。「水道は錆びているし、小さな地震で大きく揺れるし、冬なんて家の中でも水が凍るほど」。建て替えるか、どうするか。悩んで出した答えは、リノベーションだった。
喫緊の課題は断熱性と耐震性の向上。ただ、もうひとつ気になることがあった。
「居間にしかいないんですよ。すごく広い家なのに」。
昔ながらのつくりゆえ、広縁沿いには居間、和室、仏間と座敷が並ぶ。北側には台所や納戸。一つひとつが仕切られているから、感覚的にもなぜだか遠く感じて行かなくなる。当然子どもたちも親の顔が見える場所から離れない。そうなると、みんなで一日モノに囲まれ狭くなった8帖間で過ごすことになる。本当は、すごく広い家なのに。
「広く住みたい」。それが、もう一つのリノベのテーマになった。
居場所、あちこち。
断熱・耐震改修に合わせて「広く住む」をテーマに見直した家は、ひとつの大きな空間になった。居間と和室を合わせた空間は、土間吹き抜けのあるDKに。10帖あった奥の仏間は、6帖を残してリビングに。吹き抜け越しに2階ともつながって、まさに家じゅうがひと続きだ。
「見渡せるって、すごくいい。行かない場所がなくなったもの」。
いつも狭い空間で静かに遊んでいた子どもたちは家じゅうを遊び場にするようになり、毎朝手を合わせる時にしかいかなかった仏間は、日常がそばにある場所になった。
キッチン、テーブル、窓辺、土間、ソファ、畳。どこにいてもお父さんとお母さんの顔が見えるから、子どもたちはどこででものびのび過ごす。つくったり、切ったり、塗ったり、食べたり、弾いたり、ゴロンとしたり。好きなように、好きに過ごす。何かに夢中になって、時折、向こうにいるお父さんをちらりと見る。お母さんをちらりと見る。変わらずそこにいると分かれば、再びまた手を動かし、体を動かし、自分の世界に入り込んでいく。
居場所があちこちにある見通しのきく空間は、もしかしたら子どもの能力を引き出しながら自立を助けてくれるのかもしれない。
驚いたのは、子どもたちが吹き抜けハシゴを自分でスイスイ昇ること。
寝室や、おもちゃの詰まった子ども室のある2階への「近道」だそうだ。ちいさな手でハシゴにつかまり、一段一段足を乗せトコトコ昇っていく様を見ていると、ちいさな手には握力があり、むちむちの腕と脚には筋力があるのがよくわかる。「小さな子には危ないんじゃ?」なんて余計なお世話、大人はただ黙って見守っているのがいいんだと思い知る。
ちなみに帰りは、ちょっと遠回りでも階段を使って降りてくる。
「ハシゴを降りるのはちょっとこわい」「まだ危ない」。子どもたちは、体感しながらそういうこともちゃんとわかっているのだ。口を酸っぱくして言わなくても。
古いもの、手の込んだもの。
A邸は、あちらこちらに「古いもの」が置かれている。
ダイニングのテーブルやイスは元々祖父母が使っていたものだし、土間のピアノはお母さまの代のもの。棚には古箪笥や編みカゴなんかも置かれている。それが不思議と家に馴染んで、柱にかけられた和箒すらおしゃれに見えるから面白い。
「古いものが好きなんですよね。手の込んだものとか、昔からあるものとか」とご主人。「だからこの家に住みたいと思ったし、この家をリノベーションできたらかっこいいと思ったんですよね、僕も。」とリノベを後押ししたご主人の想いを教えてくれた。
実際、この家はカッコいい。
敢えてそのままにした柱のほぞ跡や溝は、家の雰囲気をつくる「デザイン」のひとつでもあり、「昔があって今がある」と感謝の思いを抱かせてる景色でもある。奥さまが幼心に心惹かれた雪見障子は、広い空間の中で活かされ開閉するごとに雰囲気を変える仕掛けになっている。そういう空間に、古いもの・手の込んだもの・気持ちのこもったものが加わると、それらが共鳴しあってなんとも言えない雰囲気を醸し出すから不思議だ。
古い方が、かっこいい。手の込んでいるものこそ、愛おしい。
この家にいると、その意味合いが体感を通して伝わってくる。
思い出の続きを編む
手と体を動かし、家じゅうを使って遊ぶ子どもたちに歩幅を合わせ、全力で遊び切るご主人。その様子を笑顔で見守りながら、時にその中に混ざっていく奥さま。家じゅうにこだましている「きゃっきゃっ」という愛らしい声は、多分きっと、おじいちゃん・おばあちゃんにも聞こえているはずだ。
「前にも増して、この家が好き」と夫妻。
たくさんの思い出の詰まった家は、また新たな思い出を編み始めている。
竣 工:2023年11月
家族構成:ご夫婦・お子さま2人
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家の中央に位置する土間は、セカンドリビング的な役割を担っているそう。
大好きな雪見障子は、既存を活かした。開け閉めで空間の表情が変わって面白い。
元々10帖あった仏間を6帖に縮め、4帖分をリビングスペースに。仏間の佇まいは以前のまま。
ふたりで土間に腰掛け足をもそもそ。静かにもそもそ。何をしているのかと思ったら、ぺろぺろキャンディーを食べていたみたい。
キッチンから書斎まで一直線。ミニカーを走らせるのにちょうどいいらしい。
柱のほぞ跡や溝は敢えてそのまま。「以前があって、今がある」のを感じさせる。
寝室は内装仕上げのみ。2階は改修範囲外として線引きし、ほとんど手を加えていない。
2階廊下は窓が3重。中央に家を建てた当時の木製窓、外側に後付けのアルミサッシ。それでもやっぱり寒くて今回内側にインプラスを設けた。せっかく残してあった木製窓の趣を失うわけにはいかなくて、の選択。
– movie「リノベ暮らし探訪」 –